2016年から新しく施行された8月11日の「山の日」。山に親しむ機会を増やそうということで設けられた新たな祝日ですが、最近では、特に中高年に登山愛好家は増えているようです。

しかし、山は時として脅威と化します。北海道のトムラウシ山で起きた遭難事故はそのよい教訓です。

ガイド3人が付きながら、8人の犠牲を出したこの遭難事故は、そのガイドたち、ひいては主催したツアー会社にも重大な過失があると言われています。

それはどういうことなのか。

山の日にあたり、皆さんも山について考えてみませんか。

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トムラウシ山とはどんな山?

トムラウシ2

北海道のちょうどど真ん中に位置するトムラウシ山。標高は2,141mあります。

「トムラウシ」は「富良牛」と当て字で書かれたりもするようですが、アイヌ語で「花の多いところ」という意味なのだそう。

その意味の通り、花や高山植物、沼や湖などの自然が手を入れられることなく残っていて、日本百名山の1つにも選ばれています。

しかし、北海道大雪山系に位置することでもわかる通り、夏場でも雪が溶けずに残る地帯があり、天候が悪ければ体感温度もマイナスになるような厳しい環境の山でもあります。 

トムラウシ山遭難事故はガイドの判断が生死を分けた

トムラウシ

2009年7月に起こったトムラウシ山遭難事故。

7月14日~16日の2泊3日の行程で行われたこのツアーには、男性客5名、女性客10名、ガイド3名の計18名が参加しました。

ツアー客は全員が50代後半から60代という中高年世代。ガイド3人のうち、1人は61歳のベテランガイドでしたが、残る2人は30代の新人ガイドという構成だったようです。

初日は、予定通りに宿泊地の白樺荘をスタート。ロープウェイで旭岳山頂まで上がり、雪渓などを歩きながら、ほぼ予定通りにコースをこなしたようです。

夕方には、ガイドが翌日の天候を確認し、悪天候が予想されたものの、ツアーは予定通り決行することを決めました。

2日目。雨具を着用して早朝5時に小屋を出発。風や雨が次第にひどくなる中、大きな休みを取ることはなく、午後3時まで一行は歩みを進めました。

このことで体力は消耗し、身につけていた服装も濡れた人が多かったようですが、ほとんど乾かないままだったようです。気になる雨は、一時は落ち着いたものの、夜更けにはまた雨脚が強くなっていました。

そして問題の最終日

午後は晴れるというガイドの判断のもと、5時半に小屋を出発。雪渓をアイゼンをつけながら進み、足場の悪い岩の道を歩くうち、出発から1時間も経たないうちに体調に異変が起きた人が出始めます。

それでも、何とか歩みを進めたものの、出発から5時間半ほどの地点で68歳の女性が低体温症で動けなくなりました。

そしてガイドたちは、この女性にどう対処するか判断するのに1時間強を要します。その間、残る14名のツアー客たちは、冷たい風にさらされ、このことが全員を低体温症に陥れたと見られています。

結局、ベテランガイドがこの女性に付き添い、野営することになりましたが、この女性もガイドも発見された時にはツエルト(テントのようなもの)も飛ばされており、女性はすぐに亡くなり、ガイドも1~2時間後には亡くなったと推定されています。

出発したその他の一行のうち、また具合が悪くなった女性が3人出ましたが、その女性にはツアー男性1人とガイドが1人付き添い、野営をすることになります。

しかし、2人の女性は息を引き取り、残る3人は陸上自衛隊によって、翌日の早朝に発見されました。

自力で歩けた10名を残るガイドが率いて下山を試みましたが、途中4名が亡くなる結果となりました。

亡くなった8名の死因は低体温症に陥っての「凍死」。亡くなった年長ガイドの方には確認する術もありませんが、残る2人のガイドは低体温症についての詳細を学んだことはなかったと言います。

また、生存した方の中にはガイドの判断に業を煮やし、救助の要請を迫った人もいたようで、判断の甘さが当時は指摘されました。

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ツアー会社の重大な責任

このツアーを企画したのは東京のアミューズトラベルという旅行会社でした。

ガイドの判断ミスがこの事故を招いたことは明らかであり、そのガイドたちが判断をする基準などがなかったことや、そのガイドたちのことを過大評価していたことも指摘されましたが、

そもそもこのようなツアーは天候不良などによる予備日が設けられていないことも多く、そのようなツアーの立て方にも当時は言及されました。

このアミューズトラベルが主催するツアーでは、2012年11月に中国の万里の長城でのツアーで3人の凍死者が出る事故が発生し、会社は廃業となっています。

8人も犠牲者を出し、世間から大きな追求を受けながら、再び被害者を出した制裁としては当たり前のことと言えると思います。

また、2009年のトムラウシ山での事故以前にも、2002年に同じ山で2人の死者が同じ原因で出ているという事実があります。

山に登ることは、自己責任という見方もありますが、ツアーなどに参加する場合は、ある程度の判断を「プロの判断」として、ツアー会社に委ねることは当然のような気がします。

このような利用者の思いも理解した上で、安全第一にツアーを組むべきだと思います。

山の日は「山に親しみ、山に感謝すべき日」。

山が憎むべき対象とならぬよう、その自然に立ち入るときには、すべてを他人任せにせずきちんと確認をすることも必要なのかもしれません。

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